妊娠をキッカケに「赤ちゃんのために食事に気を付けないと!」と、食事に注意を払うようになる人はとても多いです。
妊婦さんが食事関連で気を付けるべきことはたくさんありますが、その中の1つに「魚介類」があります。
ポイントは「水銀」。
知らず知らずのうちに魚から水銀を過剰摂取し、お腹の中の胎児に悪影響を及ぼすおそれがあることをご存じの方はどれだけいるでしょうか?
今回は、妊婦さんが知っておくべき魚介類と水銀の重要な話ということで、「そもそも水銀とは何なのか」「胎児にどんな悪影響があるのか」「気を付けたい16種類の魚」「気にせず食べれる40種類の魚」「お刺身などの生魚はOKなのか」など、徹底的に説明していきます。
この記事をお読みいただいて、安心して魚介類を食べていただけたら幸いです。
そもそも水銀とは?有害なのはメチル水銀?
水銀は地球上に多く存在する元素です。大気中には地球レベルで自然発生した水銀が年間2700~6000トン、ゴミ焼却や石炭燃焼などの人工的に生まれた水銀が年間2000~3000トンもあるそうです。
これらの水銀は降雨等により川や海に流出し、川や海などの水中の微生物の働きで神経毒性をもつ有害なメチル水銀となり魚介類に取り込まれます。このため、多くの魚介類にはメチル水銀が含まれているのです。
それが「プランクトン→小魚→大型魚類」といった水生生物の食物連鎖によって濃縮されていきますので、食物連鎖の上位にある大型魚類や深海魚などで濃度が高くなる傾向があります。
そして、人がこれらの魚介類などを食べることで有害なメチル水銀を体内に摂取してしまう、というサイクルになっています。もともと日本人は魚の消費量が多いため、実に水銀摂取の80%以上が「魚介類から」となっているのです。
水銀(メチル水銀)は胎児にどんな悪影響を及ぼす?
無機水銀は消化管(小腸)からほとんど吸収されませんが、メチル水銀は簡単に吸収されてしまいます。そして母親の体内に取り込まれたメチル水銀は、胎盤を通過して胎児に移行してしまうのです。
胎児はメチル水銀を体外に排泄することができません。
さらに胎児期は、脳などの中枢神経系がどんどん発育する時期でもあるため、メチル水銀の感受性が高く、脳の発達への影響が懸念されているのです。
胎児にどんな悪影響がある?
では実際にどんな悪影響があるのでしょうか?
メチル水銀は、非常に高いレベルでは「水俣病」などが報告されていますが、今回の魚についてはそれほど重篤なものではないと考えられています。
厚生労働省のホームページには
と記載されています。私たちにはイメージしにくい感覚でしょう。
もし悪影響が出たとしても、将来の社会生活をおくる上で、支障をきたすようなものではないとのことです。
魚の水銀を気をつけるのは妊娠中だけで良い?
厚生労働省が実施している調査によると、平均的な日本人の水銀摂取量は、健康への影響が懸念されるレベルではありません。「水銀量の多い魚を毎日大量に食べる」のような極端に偏った食生活でなければ問題はないでしょう。
胎児期は…
・脳などの中枢神経系が急激に発育する。
という特質があるため、妊娠中の母親にたいしては「水銀を多く含むお魚をあまり摂取しないように」と注意が促されているわけです。
乳児期では、メチル水銀の摂取源は主に母乳からとなり、濃度はだいぶ薄まりますので、母親が極端な食生活をしていなければ特に心配する必要はないとされています。
また、小児になればメチル水銀を自力で排泄することができます。中枢神経系も十分に成長していることから、メチル水銀の影響も大人同様であると考えられています。
こういったことから、魚の水銀を注意するのは、妊娠中の母親のみが対象となっています。
妊娠中は危険?妊婦さんが水銀量を気を付けるべき魚はこの16種類!
・刺身1人前・切り身1切れ(約80g)を1人前の量とする。
・1週間に食べて良い水銀量のレベルを●(丸印一個分)とする。
この2つの条件のもと、妊婦さんが気を付けるべき魚についてお伝えします。
丸印半個
1食約80gとして週に2回まで (1週間当たり160g程度) | キダイ・マカジキ・ユメカサゴ・ミナミマグロ(インドマグロ)・ヨシキリザメ・イシイルカ・クロムツ |
丸印1個
1食約80gとして週に1回まで (1週間当たり80g程度) | キンメダイ・ツチクジラ・メカジキ・クロマグロ(本マグロ)・メバチ(メバチマグロ)・エッチュウバイガイ・マッコウクジラ |
丸印2個
1食約80gとして2週間に1回まで (1週間当たり40g程度) | コビレゴンドウ |
丸印8個
1食約80gとして2ヵ月に1回まで (1週間当たり10g程度) | バンドウイルカ |
以上、16種類の魚については、水銀の摂取量をよく考えた上で、量を調節しながら食べるようにしましょう。
基本的には、下の図のように1週間に丸印1個分に調整すると良いでしょう。
水銀量を気にせず食べれる!妊婦さんOKの魚40種類をご紹介!
厚生労働省の資料(魚介類に含まれる水銀の調査結果)では、さまざまな魚介類において、総水銀及びメチル水銀についての数値が公開されています。
まず最初に、厚生労働省のホームページで公開されている「特に注意が必要でないもの」12種類を、総水銀・メチル水銀の平均値とともにご紹介します。
総水銀 μg/g | メチル水銀 μg/g | |
キハダ | 0.179 | 0.177 |
ビンナガ | 0.237 | 0.164 |
メジマグロ | 0.158 | 0.185 |
ツナ缶 | 0.114 | 0.109 |
サケ(鮭) | 0.027 | |
アジ(鯵) | 0.040 | |
サバ(鯖) | 0.104 | 0.073 |
イワシ(鰯) | 0.018 | |
サンマ(秋刀魚) | 0.058 | |
タイ類(鯛) | 0.093 | 0.067 |
ブリ(鰤) | 0.153 | 0.197 |
カツオ(鰹) | 0.154 |
以上の12種類の魚介類については、厚生労働省のホームページで「特に注意が必要でないもの」として掲載されているので安心して食べていただけます。
続いて、他の魚介類で、わりとよく見聞きするものについて、「特に注意が必要でないもの」と同等の水銀量で、妊婦さんでも安心して食べれるもの28種類を厳選してご紹介します。
総水銀 μg/g | メチル水銀 μg/g | |
カンパチ(間八) | 0.121 | 0.156 |
アカムツ(ノドグロ) | 0.187 | 0.171 |
アユ(鮎) | 0.058 | 0.014 |
イサキ | 0.064 | 0.187 |
イカナゴ(コウナゴ) | 0.010 | |
カワハギ | 0.048 | |
ギンダラ | 0.216 | 0.177 |
クエ | 0.227 | 0.219 |
サワラ(鰆) | 0.035 | 0.023 |
シシャモ | 0.022 | |
スズキ(鱸) | 0.102 | 0.073 |
タチウオ(太刀魚) | 0.112 | 0.053 |
トビウオ(飛魚) | 0.039 | |
ニジマス(虹鱒) | 0.070 | 0.071 |
ニシン(鰊) | 0.017 | |
ハタハタ | 0.040 | |
ハモ(鱧) | 0.121 | 0.194 |
ヒラマサ(平政) | 0.121 | |
フグ(河豚) | 0.060 | |
ブラックバス | 0.040 | 0.025 |
ホッケ | 0.086 | |
ワカサギ | 0.015 | |
イカ(烏賊) | 0.039 | |
ウニ(海胆) | 0.002 | |
エビ(海老) | 0.017 | |
タコ(蛸) | 0.033 | |
ウナギ(鰻) | 0.053 | 0.045 |
アナゴ(穴子) | 0.051 |
以上の28種類の魚介類についても、水銀量を気にすることなく安心して食べることができるでしょう。
水銀(メチル水銀)が含まれる魚介類を食べるときには、基本的には次の図のように「1週間に食べて良い水銀量のレベルを●(丸印一個分)とする」が守れるように調整しましょう。
出典:mhlw.go.jp
「妊婦さんOKの魚40種類」については、あまり気にせずに食べいただいて問題ありません。(もちろん、1種類だけ大量に食べるのはよくありません。いろいろな食材をまんべんなく食べましょう。)
水銀量の多い魚介類を食べ過ぎてしまった!大丈夫?
とある週に、水銀量に注意すべき魚介類を食べ過ぎてしまった場合は、次の週は量を減らすなどして、トータルとして量を守っていけば良いようです。
例えば、下の図のように、ある週に…
・キンメダイの焼物を1切れ(●丸印1個分)
・ミナミマグロの刺身を1人前(丸印半個分)
を食べたならば(丸印は合計1個半)となりますので、翌週は「マカジキの刺身」1人前((丸印半個分)のみにする、という形で全体としての量を調節しましょう。
妊婦さんは刺身OK?妊娠中に生で魚介類を食べるのはNG?
一般的に「妊娠中は生魚は良くない!」「火を通して食べるのが基本!」と言われますが、実際にはどうなのでしょうか?
インターネットで医師や看護師さんの説明などを見ると、大まかにまとめれば…
・アニサキスなど寄生虫の心配な魚の生食は、なるべく避けたほうが無難(アジ、サバ、サケ、サンマ、カツオ、イワシ、イカなど)
・妊娠中は抵抗力が弱まっていて食中毒になりやすいので、基本は火を通すこと。
・生で食べる場合は自己責任で。
という感じです。
上記で紹介した画像は厚生労働省のホームページのものですが…、普通にお刺身の画像が掲載されていることからも、お刺身が絶対にNGというわけではないのでしょう。
出典:mhlw.go.jp
ですので、どうしてもお刺身やお寿司など生で食べたい場合は、「新鮮なものであるかどうか」を重視し、あくまで自己責任のもとに食べましょう。
妊娠中は水銀量を気にしながら、積極的に魚を食べましょう!
以上、妊娠中に注意して欲しいお魚と水銀について、説明させていただきました。
一部の魚介類には水銀(メチル水銀)が多く含まれており、妊婦さんがそんな魚をたくさん食べてしまうと、お腹の中の胎児に悪影響を及ぼしてしまいます。
だからといって「魚介類には水銀が入っているから、妊娠中は魚は食べちゃだめ!」というわけではありません。
むしろ、魚介類等にはDHAやEPAといった機能性成分のほか、タウリンやカルシウム、鉄分、たんぱくなどの成分も豊富に含まれています。微量栄養素の摂取源でもあるため、妊娠中にはとっても重宝される食材なのです。
妊娠中にこそ、魚は積極的に食べて欲しい食材です。
あくまで水銀が多く含まれている魚介類には注意が必要で、定められた量を守って食べることが大切だということです。
ですので、ぜひ当記事の内容をチェックしながら、水銀量の少ない魚介類を、食事の中でバランスよく積極的に摂取するようにしましょう!幸いにも、スーパーで市販されているような魚の多くは、「特に注意が必要でないもの」に該当するので、見つからなくて困ることはないでしょう。